暑さに強い繁殖戦略——暑熱期にこそ受精卵移植
2025.06.17その他
「今年も夏の繁殖が心配だ……」
暑熱、猛暑、残暑、熱波、最近は毎年のように異常気象に悩まされます。
今年も梅雨に入り、気温・湿度ともに上昇する中で、牛の繁殖について不安を感じていませんか?
暑熱によるホルモンバランスの乱れや受胎率の低下は、毎年繰り返される課題です。
夏は繁殖成績が落ちる…という悩みは多くの農家に共通です。
実際、35℃を超える日が続くと、人工授精の受胎率は10%台に落ちることも報告されています。
そんな中、夏場の強い味方として注目されているのが受精卵移植です。
今回は、その理由とメリットを図とともにわかりやすく解説します。
人工授精が猛暑で低下する主な理由
卵巣機能の低下(排卵異常)
・高温により黄体形成や排卵がうまくいかないケースの増加。
・無排卵、未熟な卵子、排卵遅延などが起こり、正常な受精が成立しにくくなる。
卵子・胚の質の低下
・高温ストレスにより卵子そのものの質が劣化。
・受精後、初期胚の発育が不良になり、着床率が低下する。
ホルモン分泌の乱れ
・暑熱ストレスにより、視床下部-下垂体-卵巣系に影響を与え、LHやFSHなどのホルモン分泌が不安定になる
・発情が弱くなり、見逃されることで適切なAIのタイミングを逃してしまう。
子宮環境の悪化
・高温下では子宮内膜の炎症が起きやすく、受精卵の着床環境が悪化。
・着床前に胚が排出されてしまう確率が高まる。
体温上昇による胚死
・高体温が続くと、胚が定着前に死滅する可能性も高く、受胎に至らない。
夏場における受精卵移植の受胎率が安定する理由
➀すでに発育した初期胚を移植するため、高温の影響を受けにくい
・受精卵の耐熱性について
暑熱ストレスは受精卵の発育に悪影響を及ぼします。各ステージの受精卵に暑熱ストレスを与え生存率を調べた実験が行われています。
・暑熱ストレスを与えた実験(Ealy et al. (1993))では、DAY1で暑熱ストレスがあった場合の胚の生存率は55.0%、同様にDAY3で68.0%、DAY5で65.0%、DAY7で88.9%となりました。また、DAY1で暑熱ストレスを受けた回収胚は、その後の成長にも影響し、死滅せず成長を続けた場合も9~16細胞期に留まるものが多く、胚盤胞まで発育する割合は34%となりました。
この実験により
AIの場合
受精は体内で行われるため、卵子の成熟・受精・胚発育のすべてが高温ストレスにさらされる。
ETの場合
発育済み(通常7日齢前後)の胚を移植するため、高温の影響を受けやすい卵子や初期受精プロセスを回避できる。
胚は、一定の耐熱性があるため、暑熱下でも比較的安定した着床が可能。
②排卵やホルモン分泌の異常があっても、ドナーの管理で受胎率の向上が期待できる
AIの場合:夏場は発情が弱くなることや、排卵障害が起きやすく、発情検知ミスや排卵不全により不受胎のリスクが高まる。
ETの場合:ホルモン剤(PGFやGnRH)を使うことにより、排卵や黄体形成を管理することが可能。
酷暑の年はAIの受胎率が25%を下回ることもあり、繁殖成績が著しく悪化したという報告が全国で見られますが、受精卵移植は40〜50%超の安定した受胎率を得ることができます(当社取り扱い受精卵集計)。
まとめ
夏場は人工授精よりも受精卵移植が理にかなった選択肢となっており、ETの利用が全国的に広まっています。
当社では暁之藤や福勝鶴、福之姫など優秀な種雄牛を利用し、熟練された培養士が作成した受精卵を豊富に取り揃えております。
高温による不受胎リスクを減らす、また優秀な産子を生産する事で生産性、収益性の向上をはかり、経営力の強化になります。
「暑いからこそ移植」という発想が、次世代の繁殖経営のカギになります!