酪農の未来を学ぶ:デイリーコンパス2025
2025.05.28酪農
酪農セミナーで学ぶ、乳牛飼養の最前線
2025年5月26日〜27日の二日間、北海道帯広市にて開催された「デイリーコンパス トレーニング&セミナー2025」に参加してきました。サスカチュワン大学のグレッグ・ベナー博士による講義では、「ルーメンアシドーシスのリスク要因」「発想を転換する搾乳ロボットの栄養管理」など、乳牛飼養管理に関する最新の科学的知見が紹介され、実践現場にもすぐに活かせる有益な内容が数多く盛り込まれていました。
アシドーシス対策の最新知見:「反芻」よりも「柔毛」!
従来、乳牛のアシドーシス対策といえば「反芻の促進」が重要とされてきました。しかし、最新の科学的分析によると、酸の除去において反芻はわずか28%程度であり、ルーメン内の柔毛(乳頭突起)による酸除去は52.9%に達することが分かりました。このデータは試験に基づき、反芻の重要性だけではなく柔毛の発達がいかに重要であるかを示しています。
分娩前は飼料摂取量が減るので柔毛(ルーメン乳頭突起)が縮小していきます。分娩後に縮小した柔毛は酸吸収能力が落ちているためルーメン内のpHが下がりアシドーシスのリスクが上がります。そのため、分娩直後には質の高いイネ科粗飼料(例:短切チモシー)を一時的に増やすことで柔毛の発育を促し、アシドーシスを予防することが重要です。これは果樹や野菜栽培において、収穫後にお礼の肥料を与える感覚に似ており、非常に納得感のある提案でした。
搾乳ロボットと栄養管理:「給与量」ではなく「摂取量」を見る
搾乳ロボット内での濃厚飼料給与について、精密給与設計に対して実際の摂取量が異なり、残渣が生じやすいことが明らかになりました。残渣は次の牛に食べられてしまい、摂取量に過不足が生じたり、過剰摂取のリスクを引き起こします。
ロボット内の濃厚飼料給与量が多くなるほど、PMR(完全混合飼料)の摂取量が減少し、結果として乳量の増加にはつながらないとのことです。実験では、ロボット内で2kgのペレットを給与した群ではPMR摂取量が25kg、6kgペレット給与群ではPMR摂取量が22kgと減少しました。その結果、PMR摂取量の多い群の方が乳量が高いことが示されました。
現行の搾乳ロボットでは、設定した量の飼料を牛の目の前に給与することは可能ですが、その時の牛の気分や状態によって実際の摂取量は決まります。また、現行の搾乳ロボットには、牛がどれだけ飼料を食べたかを正確に測定する機能は備わっていません。そのため、飼料設計では給与量を基準に計算しますが、実際の摂取量が給与量とは異なるため、設計通りに栄養管理が行われないという問題が生じます。
将来的には搾乳ロボットは摂取量も測れるようになると予測されていますが、現行の搾乳ロボットであればロボット内の給与量を0gに設定するという考え方もあるそうです。しかし、実際には牛をロボットへ誘導する目的を考慮し、300g程度が適当と提案されています。
夜の懇親会での学びと交流
夜の懇親会では、グレッグ博士と直接お話しする機会があり、妊娠期間中の栄養管理が原子卵胞(卵巣内の未成熟卵)の発育に与える影響や、カナダの屠畜場事情について学ぶことができました。カナダではホルスタインの雄牛を嫌い、アンガスやヘレフォードを交配してF1を生産する動きが進んでおり、アンガスF1の濡れ子(生まれたばかりの仔牛)は1頭あたり1000カナダドルで取引されているとのことでした。
会場の様子
セミナー会場には多くの参加者が集まり、展示ブースでは最新製品や資材の紹介が行われ、活発な交流と情報共有が行われました。現場の課題解決や国際的な知見の吸収に役立つ、充実したセミナーとなりました。
おわりに
今回のセミナーを通じて、これまでの常識を見直し、より深い学びを得ることができました。主催者の方々、講師の皆さま、関係企業の皆さまに心から感謝申し上げます。これからも学んだ知識を現場で実践し、さらなる向上を目指して邁進していきます。